アセクシュアルと混同されがちな概念についてのまとめ(セリバシー、無性欲など)

アセクシュアル(Asexual)と混同されがちな概念について、整理したいと思います。
Twitter(X)で投稿したものですが、備忘録としてまとめておこうと思います(その方がいろいろな人のお役に立ちそうなので)。


※ アセクシュアルという表記について
アセクシュアル(Asexual)については、いくつかの表記ゆれがあります。列挙してみると、
アセクシュアル、アセクシャル、エイセクシュアル、エイセクシャル、Aセクシュアル、Aセクシャル、無性愛者
また、人ではなく概念自体としては、アセクシュアリティや無性愛と表記されることもあります。英語ではAsexualityですね。
このように、表記ゆれが多いです(これは、Twitterなどで検索するときやハッシュタグ(#)で交流するときに障壁となっている気がします)
どの表現が適切なのかはよくわからないのですが、暫定的に「アセクシュアル」という表現を用いています。


アセクシュアルの定義
アセクシュアルの定義としては、私見ですが、「『性的惹かれ(sexual attraction)』がないこと」と考えています。

例えば、ウェブサイト「The Asexual Visibility and Education Network」では、以下のように記載されています。

「アセクシュアルの人は、性的惹かれを経験しない人です」 

(An asexual person is a person who does not experience sexual attraction. )

また、「特定非営利活動法人にじいろ学校」の「用語一覧」では、以下のように記載されています。

アセクシュアル 

他者に性的に惹かれない人(他者に性的な魅力を感じない。または、他者に性的な魅力は感じるがその人と性的な行為をしたいとは思わない) 

※性欲があるかどうか、性行為をするかどうか、性嫌悪があるか、恋愛をするかしないかは定義に含まれません 

※Aシュアル、エーセクシャル、アセクシャル等の表記をされる場合もあるが、いずれも同じ意味。 

※アセク、Aセクと略されることが多い

以上のように、「性的惹かれ」(≒他者に性的な魅力を感じること)がアセクシュアルかどうかを判断する基準として考えられることが多いです。

このような見方は、書籍によっても示されています。
アンジェラ・チェン(2023)『ACE──アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』(羽生有希訳)左右社でも、アセクシュアルは「他者に性的に惹かれない」ものとされています。


これに対して、異なる定義が提示されている場合もあります。

例えば、JobRainbowの記事「アセクシュアル(Aセクシュアル・エイセクシュアル)とは?【恋愛はしない?】」では、以下のような定義が示されています。

アセクシュアル(Aセクシュアル・エイセクシュアル)とは、他者に対して性的欲求(や恋愛感情)を抱かないセクシュアリティのことです。

この定義は、上で引用した複数の定義とは食い違っています。
特に、「特定非営利活動法人にじいろ学校」の「用語一覧」で記載されている、「性欲があるかどうか......(中略)......は定義に含まれません」という記述に反するものです。

私としては、やはりアセクシュアルは、(性的欲求の有無や性的活動の有無ではなく)「性的惹かれ」によって判断されるものと考えます。


アセクシュアルと混同されがちだが異なる概念の整理

以上のように考えると、セクシュアリティの在り方として、「アセクシュアル」とは異なるもの(であるがしばしば混同されがちなもの)として、以下のものが挙げられるかと思います。


・性的活動をしない、あるいは避けている場合
(性的活動......性的活動、性的行為、性行為など表記ゆれが多いため、ここでは「性的活動」との表記で統一します)

「特定非営利活動法人にじいろ学校」の「用語一覧」で記載されている通り、アセクシュアルだからといって性的活動をしないとは限りません(つまり、性的活動をするアセクシュアルもいます)。
それでは、「性的活動をしない(あるいは避けている)」という状態は何と呼ばれるのでしょうか。

DMを通じて教えていただいたのですが、「セリバシー」(celibacy)という呼び方があるようです。
上で引用したウェブサイト「The Asexual Visbility and Education Network」には、以下のような記載があります。

「性的活動を控えるという選択であるセリバシーとは異なり、アセクシュアリティは、他の性的指向とまさに同様に、私たちが誰であるかということの本質的な一部です」 

(Unlike celibacy, which is a choice to abstain from sexual activity, asexuality is an intrinsic part of who we are, just like other sexual orientations.(

このようなアセクシュアルとセリバシーとの区別は、上で挙げたアンジェラ・チェン(2023)『ACE──アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』(羽生有希訳)左右社でも見られるようです。


・性的欲求(性欲)がない場合

こちらについては、調べても呼び方が特に見つかりませんでした。
(Googleなどのインターネット・ブラウザで検索するとアセクシュアルの方が表示されることが多いです)
ひとまず、私自身はそのまま「無性欲」と呼ぶ方針でいこうかと思っています。
(今後も調べ続ける予定です)


区別のための喩え

ここで、整理するためにセクシュアリティを食事に置き換えて考えてみたいと思います。

まず、「性的惹かれ」と「性的欲求」と「性的活動」は以下のように置き換えられそうな気がします。

  • 性的惹かれ→ 食べ物に対する惹かれ……食べ物に対して「美味しそう」と感じること
  • 性的欲求→ 食欲……(お腹が空くなどして)「食べたい」と思うこと
  • 性的活動→ 食事……食べ物を食べること

「性的惹かれ」が何か対象に対してなのに対して、「性的欲求」は自分のなかから生じるようなもの、「性的活動」は実際の行為として考えられると思います。

そして、それぞれに対応して、以下のように考えられるかと思います。

  • アセクシュアル(性的惹かれがない)→ 食べ物に対して「美味しそう」と感じない
  • 無性欲(性的欲求がない)→ お腹が空かない、「食べたい」と思わない
  • セリバシー(性的活動をしない)→ 食べ物を食べない、控えている

以上のように比喩的に考えられそうです。


まとめ

以上のように、アセクシュアルは「性的惹かれがないこと」というように定義されることが多いです。
それを踏まえるならば、「性的活動をしないこと」(セリバシー)や「性的欲求がないこと」(無性欲)とは区別される必要があると考えています。

アセクシュアルは、「性行為をしない」、または「性欲がない」といった印象を持たれることが多く、その結果として「性行為をする」アセクシュアルや「性欲がある」アセクシュアルが不可視化・周縁化されがちかと思います。

セクシュアリティに関する誤解を避け、概念を整理するためには、「セリバシー」など、依然として認知度の低い用語にもっと焦点を当てることが必要かと思います。


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